平成24年10月6日(土)に第10回目の「スーパーコンピュータ「京」を知る集い」を広島YMCA本館(BF1)国際文化ホール(広島市中区八丁堀7-11)において開催しました。
今回、233名の方にご参加いただきました。ありがとうございました。
各講師のプレゼンテーション要旨につきましては、こちらからご覧いただけます。プレゼン資料ついては下記のプログラムの中にPDFファイルで置きましたので、ダウンロードしてご覧ください。
なお、当日回収させていただきましたアンケート調査の結果はこちらをご覧下さい。次回以降の開催の際の参考とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。
■概要
- (1)主 催:独立行政法人理化学研究所
- (2)開催日時:平成24年10月6日 土曜日 13時30分~16時(受付13時〜)
- (3)開催場所:広島YMCA本館(BF1)国際文化ホール
( 広島市中区八丁堀7-11 ) - (4)定員:300名程度(先着順)
- (5)プログラム
13時30分~13時35分 | 挨拶 平尾 公彦理化学研究所計算科学研究機構 機構長 |
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13時35分~14時 |
伊藤 聡 理化学研究所計算科学研究機構 コーディネーター |
14時~14時40分 |
前田 拓人 東京大学地震研究所 助教 |
14時40分~14時55分 | 休憩 |
14時55分~15時20分 | 「技術の壁を突き破れ!~スーパーコンピュータ「京」の開発~」(VTR)上映 |
15時20分~16時 |
本間 光貴 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 チームリーダー |
■講演要旨
■パソコンで出来ること、スパコンでなければ出来ないこと:伊藤 聡
パソコンはいまや一人一台の時代である。パソコンによってインターネットが可能となり、世界中に友人を作ったり、ショッピングしたり、あるいはブログを書くことも、ゲームを楽しむこともできるようになった。パソコンは私たちの生活を変えたと言ってよいだろう。パソコンが計算をする道具であることも多くの人は意識していないかもしれない。そのパソコン以上に私たちの生活に大きな影響を与えているものがある。それはスパコンである。スパコンは計算をするためだけに特化したものであるが、我が国で開発された世界最高レベルの性能を誇るスパコン「京」は1秒間に1京回(1億の1億倍)の計算を行うことができる最先端スパコンである。これによってきわめて複雑な現象を計算機の中で再現する“コンピュータシミュレーション”が可能となってきた。
シミュレーションとは“模擬実験”のことである。すなわち実際に試作を行うことなく、沢山のケースを精度よく、コストや手間をかけずに調べることができる。さらに実験や測定が困難な、あるいは実験不可能な現象ですら解析することができるので、モノづくりの現場では欠くことができないツールとなっている。たとえば、空気抵抗の小さい車(それは低燃費を実現する)はどのような形にすればいいのか、突然の横風が走行安定性に与える影響はどうなのか、実車を使った実験では出来ないような解析がスパコン「京」によって可能になることが期待されている。また、最近注目を集めている患者一人一人に合わせた医療であるテーラーメイド医療の実現や落としても壊れにくい電子機器の開発など身近な製品の開発にスパコンは活用されている。さらに、スパコンはモノづくりを革新するだけではなく、私たちに時間の壁や空間の壁を越えて、自然のからくりを教えてくれる。たとえば我々の住む銀河系とアンドロメダ銀河(M31)は数十億年後という遠い将来に衝突し、その後十数億年をかけて一つの巨大銀河になっていくことを今の我々に教えてくれるのである。
パソコンを生み出した30年前の技術者たちは今のパソコンの使い方を想像すらできなかっただろう。パソコンの使い道はきわめて広い。飛び抜けた計算性能をもつスパコン「京」の使い道がさらに広く、その可能性は無限である。無限の可能性を秘めるスパコン「京」は一部の研究者のためだけのツールではない。いま、スパコン「京」に必要なもの、それはまだ知られていない新しいアイディアである。そうしたすぐれたアイディアの実現のためにスパコン「京」は広く門戸を開いている。
■スパコンで挑む地震と津波の災害軽減:前田 拓人
昨年の東北地方太平洋沖地震では、地震・津波そして地殻変動(地盤沈下)が 組合わさることで、東日本の広い領域に甚大な被害をもたらしました。このよう な「複合災害」は、東北の地震に特有のことではありません。たとえば、1946年 の南海地震の際、高知市では断層運動によって地盤沈下が起こったところに津波 が流入したため、約半年という長期にわたって市街地が浸水する、という被害が 起こりました。東海・東南海・南海地震地域でも巨大地震が起こると想定されており、同じような災害が繰り返される恐れがあります。巨大地震に伴う災害をシミュレーションにより詳細に予測し、対策に繋げていくことが重要です。「京」コンピュータを有効に活用することで、現行の数倍という高い精度で地震の揺れや・津波および地殻変動の予測が可能となり、このような複合災害の軽減に向けて大きく貢献するものと期待しています。しかしその一方、「京」コンピュータ特有 の80,000を超えるノード数や相対的に狭いCPU-メモリ間などの特徴のため、従来 のスパコンで動かしていたコードそのままでは十分な実行性能を出すことができませんでした。そこで、理研開発チームのサポートのもとコードの全面的な改修に取り組み、2012年9月の一般供用開始に合わせ、「京」の高度な計算能力を十分に生かす準備が整いました。講演では、昨年の地震を振り返りつつ、地震災害の特徴や、複合災害を明らかにするための新しい計算手法の開発とチューニング、それを受けた防災・減災へ 今後の取り組みについてご紹介いたします。
■医薬品設計の科学とコンピュータ:本間 光貴
20世紀後半に、抗生物質、高血圧・高脂血症・糖尿病治療薬など様々な画期的な新薬が登場し、多くの病気が克服されました。一方、新型の感染症や癌・アルツハイマー病などの難病についてはまだ有効な治療薬がなく、進行をわずかに遅らせることしかできません。さらに、筋肉が萎縮する筋萎縮性側索硬化症(ALS)、全身が骨化してしまう進行性骨化性線維異形成症(FOP)などの遺伝性の難病は患者さんの数が少ないこともあり、まだ手つかずの状態です。21世紀は、ますます私たちを脅かす病気との闘いが重要になってきており、これまでにない医薬品を発見する必要に迫られています。
従来の「医薬品」は、研究者が身近にある化合物を試験する過程で、偶然発見されてきました。しかし、そのような方法で発見される医薬品には限りがあり、近年は、病気の原因となるタンパク質の3次元構造を明らかにして、そのタンパク質の働きを変える医薬品を設計することができるようになりました。多くの病気は、原因タンパク質が体内で働きすぎたり、怠けすぎたりしているために症状が起こります。医薬品は、原因タンパク質に強く結合し、働きを阻害または促進することによって、薬効を発揮しますが、設計を行う際には、タンパク質と医薬品候補の相互作用を原子レベルで予測することが重要であり、シミュレーションや量子力学的計算などの理論計算、及び統計に基づいたモデルによって予測を行います。これらの計算は膨大な計算量になるので、京コンピュータを始めとした大規模な計算機の利用が欠かせません。講演では、医薬品設計の科学と最近の成果について、スーパーコンピュータへの期待を交えてお話し致します。
■アンケート調査結果
※233名中227名が回答
■お問合せ先
独立行政法人理化学研究所
計算科学研究機構 広報国際室 岡田 昭彦
TEL:078-940-5625 FAX:078-304-4964
E-mail:aics-koho@riken.jp (全角を半角に修正後お送りください)
URL: http://aics.riken.jp/shirutsudoi
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