「京」のあゆみ -その1-
「京」のあゆみ -その1-
「京」の開発はどのようにして始まり、どのように進められたのか?今号からは、そのおいたちを紹介します。
スパコンは、自動車に例えるとF1マシンです。その圧倒的な性能をもって、今まで成し得なかった計算を初めて現実のものとし、その成果によって、我々の生活を豊かにしてくれる可能性を秘めています。多くの研究分野でスパコンが重要となっている今、日本が世界をリードできるような科学・技術力の復権を目指すためにも高い計算能力を持ったスパコンが必要なのです。2006年、「次世代スーパーコンピュータ」が第3期科学技術基本計画によって国家基幹技術に指定され、「京」のプロジェクトが始まりました。
スパコンはシステムが大規模であるため、設計から製造、稼働まで長い開発期間が必要です。そのため、まずは完成時にどのような性能のスパコンが必要なのかを検討することが重要でした。スパコンの性能は過去10年で1000倍速くなってきています。「京」ではこの過去の性能上昇の分析と、「京」を利用する多くの研究者からの声をもとに、「2012年の完成時にLINPACK性能※1で10ペタフロップス※2の演算性能をもつ」ことを目標に据えました。しかし、これは多くのCPUをつなげれば達成できるような単純なものではありません。設置面積、消費電力など多くの問題をクリアしつつ、性能を高める必要がありました。
※1 LINPACK性能:LINPACKという連立一次方程式 を解くプログラムの計算速度
※2 10ペタフロップス:1秒間に10の16乗回(1京回) の演算性能
どんなに速いスパコンでも、実際に研究で使うアプリケーションが高速で動かなければ、ただの箱です。「京」では、日本で開発中の様々な分野のアプリケーションが、高速で動くようなシステム設計が求められました。一方、「京」を最大限に利活用できるアプリケーションの開発と普及も必要です。「グランドチャレンジ・アプリケーション」と題し、「京」の開発と並行してナノテクノロジーと生命科学の分野でアプリケーションの開発と普及が進められました。
「京」は様々なアプリケーションを動かすことができるよう、汎用性を重視しました。一般的に、汎用のスパコンは流体計算を得意とするベクトル方式と粒子計算を得意とするスカラ方式に大別できます。当初、「京」では両方の特性を併せ持つ複合型システムを目指していました。
大規模なスパコンは、冷却施設等の大型設備を必要とするため、設置する建物も並行して設計・建設する必要があります。このため、設計段階からどこに設置するか決める必要がありました。日本全国の候補地の中から、地震や雷などの自然条件、利用者の利便性、電力・ガス・水の供給状況など多角的に点数化した結果、2007年に神戸に設置することが決まりました。 これで、お膳立ては揃いました。次回は、製造から設置についてお話します。
(運用技術部門 ソフトウェア技術チーム 黒田 明義)
2012年07月31日発行