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研究者に聞いてみよう! 第8回

横川 三津夫 客員主管研究員

K computer Newsletter No.16 : 研究者に聞いてみよう!

よりよい未来へ――横川さんは、さまざまな研究機関で数値シミュレーションの研究やスーパーコンピュータ開発に携わった後、スーパーコンピュータ「京」の開発にプロジェクト管理のグループディレクターとして参画しました。今は神戸大学大学院教授として学生の指導にあたりながら、数値シミュレーションによって物体の流れの状態をスーパーコンピュータで解析する研究や、そのためのよりよい計算手法の開発を行っています。これまでさまざまな経験をつんできた横川さんにお話を伺ってきました。
(清風南海学園 科学研究部有志)

  • Q.流体を研究することになったきっかけは?
  • A.最初の職場で、原子炉内の配管を流れる熱水が配管にどんな影響を与えるか探るために、熱流体のプログラムを作成したのがきっかけです。いろいろな解き方があり、流れというのは意外に複雑だとわかってきて、面白くなりました。プログラムを工夫したり、計算機の仕組みを上手に利用したりすることで、計算速度が向上します。プログラムが100倍速くなると解くのに100日かかっていた計算が1日で解析できます。プログラムを速くすることが大事で、それが楽しかったです。
  • Q.プログラムがうまくいかないときは?
  • A.式の展開ミスがないか確認したり、プログラムの怪しいところの途中結果を書きだして一つずつ確認したりして、細かく見直します。なかなか見つからないときや疲れたときには、他人の目で見てもらったり、時間をおいて見直したりします。気分転換にテニスなどスポーツもします。
  • Q.「京」と海外のスーパーコンピュータの違いは?
  • A.基本的には並列計算機で仕組みは同じです。並列計算機とは、たくさんの計算機で計算を手分けすることで計算を速く終わらせるものです。「京」では個々の計算機を速くすることと、データの交換や割付けがスムーズにできる計算機間の接続が重要で、その技術を磨いてきました。「京」ではCPUを特別に開発してもらいました。海外のスパコンは特定の計算を速くする加速器を繋げていることが多いです。
  • Q.やはり1位がいいですか?
  • A.研究開発では「世界で初めて」ということが大事です。スパコン開発でも世界一のシミュレーション成果を生むコンピュータが必要であり、それがあれば、日本の科学技術が世界をリードできると思います。そのために世界一のスパコンが必要です。「京」の開発費・製作費の約800億円という額は、成果を含めて考えなければと思います。世界1位と2位の計算機では計算速度に大差ないかもしれませんが、それを使う研究者のやる気は違うと考えています。
  • Q.「京」の開発で苦労したことは?
  • A.プロジェクトを進めるのに大切なのは、計画通りに遅れなく開発目標を達成すること。東日本大震災のときには製造が遅れたこともありましたが、富士通の工場の方々や多くの方々の尽力で、何とか予定通りに「京」を完成させることができました。自然災害も考慮しなければならないのは難しいことです。
  • Q.高校時代熱中したことは?
  • A.つくば市の高エネルギー物理学研究所(当時)の加速器を見て、物体を細かくしたら何ができるのかに興味を持ちました。その頃はまだクォークも発見されていませんでしたが。物質の究極を追究する素粒子物理学に進みたいと思い、それに向けて勉強しました。
  • Q.今の高校生へメッセージをください。
  • A.いろいろなところへ出かけて行って自分が興味を持てることを探してください。大学に入ってから変わってもいい。まずはきっかけとして、好きなことを一つ見つけたらいいと思います。

プロフィール
茨城県立下妻第一高等学校卒業。筑波大学の修士課程を修了後、日本原子力研究所→産業技術総合研究所→理化学研究所→神戸大学と職場を転々……。老年に差し掛かった身体に鞭打ち、趣味はトレッキングとバドミントン。神戸の街中や六甲山系を歩くのは愉しい。

清風南海学園の皆さん

インタビューを終えて

日常生活で研究者の方にインタビューできる機会はあまりないので、とても貴重な体験でした。インタビューは初めてだったので理化学研究所に行くまでの電車の中やお会いする直前まで緊張していましたが、横川さんがとても優しく気さくな方なのですぐに緊張もほぐれ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。「京」や研究のことはもちろん、好きなこと、やりたいことを見つけて挑戦する大切さなども教えていただきました。まだまだ人生長いので、たくさんのことに興味を持ち、いろいろなところへ足を運び、経験を増やしていきたいと思いました。最後になりましたが、今回の取材に関わっていただいたすべての方々に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

(取材・執筆 大木愛也奈、外山薫、中村美友)

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