ポスト「京」が目指すこと
第6回
ポスト「京」が目指すこと
第6回
「京」の計算速度を大きく超えるポスト「京」の開発が進められています。ポスト「京」で新たに取り組むチャレンジングな課題として4つの課題(萌芽的課題)が選定されています。
極限を探究する基礎科学のフロンティアで、実験・観測や「京」を用いた個別計算科学の成果にもかかわらず答の出ていない難問に、ポスト「京」のみがなし得る新しい科学の共創と学際連携で挑み、解決を目指します。
複雑かつ急速に変化する現代社会で生じるさまざまな問題に政策・施策が俊敏に対応するために、交通や経済など社会活動の個々の要素が互いに影響し合う効果を取り入れて把握・分析・予測するシステムを研究開発します。
宇宙、地球・惑星、気象、分子科学分野の計算科学と宇宙観測・実験が連携する学際的な取り組みにより、観測・実験と直接比較可能な大規模計算を実現し、地球型惑星の起源、太陽系環境、星間分子科学を探究します。
革新技術による脳科学の大量のデータを融合した大規模多階層モデルを構築、ポスト「京」での大規模シミュレーションによって思考を実現する脳の大規模神経回路を再現し、人工知能への応用をはかります。
なぜ人は速さを競うのだろう。桐生祥秀が100メートルを9秒98で駆け抜けたとき、日本中が歓喜の渦に包まれた。それにしても、なぜ、10秒ではだめで、9秒98なら凄いのか。 いや、10秒も充分に凄いわけだが、日本人にとっては10秒が「超えられない壁」だったのだ。運動選手の能力は、遺伝的な要素による部分も大きい。それをトレーニングとテクニックとハイテクの靴でカバーして、夢の9秒台が出た。桐生の速さには格別の意味がある。 科学の世界だって同じだ。発見や発明は1番でないとダメだ。1番が全てを持ってゆく。2番目に発見しても業績にならず、2番目に発明しても特許は取れない。 われわれは第四次産業革命のまっただ中にいる。人工知能、ロボット、ビッグデータ、IoT……今後数十年で「超計算社会」がやってくる。ポスト「京」への期待は、夢の9秒台への期待と同じだ。はたして、日本は、世界のトップと肩を並べて走り続けることができるだろうか。ポスト「京」は、この国の浮沈を占う勝負に挑んでいる。ガンバレ、ポスト「京」。
竹内 薫(たけうち・かおる)
サイエンス作家。
YES International School校長。
科学を伝え、科学について語る第一人者として活躍している。
(撮影 : Sam C. David)