量子系分子科学研究チーム
量子系分子科学研究チーム
当研究チームでは、大規模で複雑な分子の「電子状態」を高速に計算するための分子理論とそのプログラム開発を行っています。
私たちの周りにはさまざまな物質があり、それぞれ多彩な機能や性質をもっています。これを決めるのは、物質を構成する分子の性質です。分子は、水素や炭素、鉄といった原子が結合したもので、原子はさらに原子核と、その周りの電子からできています。電子のふるまい、すなわち「電子状態」を調べると、物質の機能や性質を説明したり、予測したりすることができます。分子の電子状態を調べることで分子のいろいろな問題を解明しようとする研究分野は「理論分子科学」と呼ばれ、分子の研究では今や不可欠になっています。
電子状態は、ミクロの世界の基本方程式であるシュレーディンガーやディラックの波動方程式を解けばわかります。しかし、一見簡単なこの式を完全に解くのは非常に難しく、適切な近似が必要です。これまで扱えなかった複雑で大きな分子の電子状態を、「京」を使って明らかにするために、波動方程式をコンピュータで解くための種々の手法やソフトウェアをつくり出して多くの研究者に使ってもらうのが私たちの目標です。生命や物質の諸問題を、理論分子科学の手法と「京」を使って切り拓いていきたいと思っています。
理論分子科学は、波動方程式を出発点としてコンピュータを道具とする秩序だったアプローチです。多種多様で、無秩序のかたまりともみえる分子の問題が、このような論理的で系統的な研究手法で解明できてしまうところが、理論分子科学の面白さではないかと感じています。
(秋永宜伸)
2011年10月21日発行