超新星爆発を「京」で再現
ニュートリノ加熱説の正しさが、より確実に
超新星爆発を「京」で再現
ニュートリノ加熱説の正しさが、より確実に
理化学研究所
長瀧天体ビッグバン研究室研究員
星には、その一生を終えるときに大爆発するものがあります。この「超新星爆発」という現象は、古くから知られていますが、コンピュータの中で再現するのは、なかなか難しい仕事でした。しかし今回、滝脇さんを中心とするグループが「京」を使うことにより、3次元という自然に近い条件で爆発させることに成功しました。この成果は、超新星爆発のメカニズムの解明に貢献するもので、世界的に大きな注目を集めています。
夜空に突然現れ、ひときわ明るく輝く「超新星」。その名前とは裏腹に、星が一生の終わりに起こす大爆発です。
太陽の約8倍以上の質量の星がこの大爆発を起こすことはわかっていますが、どのようにして爆発が起こるのか、まだ詳しくはわかっていません。そのため、「宇宙物理学における最重要未解決問題」の1つといわれています。滝脇さんは「超新星爆発を説明できないのは、私たちの自然に対する理解がまだ不十分だからですよ」と話し、この問題の解決に取り組んでいます。
日本では1970年代に、滝脇さんの恩師である東京大学の佐藤勝彦名誉教授が、素粒子・原子核理論に基づいて超新星を理解しようと研究を始めました。以来、さまざまな爆発のメカニズムが議論されてきました。中でも有力とされているのが「ニュートリノ加熱説」です。2000年代に入り、計算能力の高いスーパーコンピュータが登場すると、この説に基づき爆発現象をシミュレーションしようという試みが世界中で始まりました。しかし、ことごとく失敗に終わりました。
それが、2005年頃になると、徐々に爆発するケースが出てきます。その理由は、2次元でのシミュレーションが可能になったことでした。それまでは、コンピュータの計算能力の限界から計算は1次元で、星を完全な球だと見なしていたのですが、2次元の計算でも、星を回転楕円体だと仮定しており、実際とは異なっているため、3次元での計算が待たれていました。
今回、滝脇さんらが3次元での再現に挑んだ「ニュートリノ加熱説」とは、どのような仮説なのでしょうか(図1)
若い星は水素やヘリウムといった軽い元素からできていますが、核融合反応が進むと重い元素が次第に増えていき、重くて安定な鉄ができると核融合は止まります。重い元素ができる際にエネルギーが放出されるので、星の内部は高温になります。星が終末期を迎えると、星の内部があまりにも高温であるために、今度は鉄がばらばらに壊れる反応が進み、急激に冷えます。さらに、ニュートリノが生まれる反応も起こり、中心からエネルギーを運びだします(「Check it ! 」参照)。その結果、星は自分の重力を支えることができなくなり、つぶれ始めるのです。
この重力崩壊が進むと、星の中心部に、鉄由来の原子核どうしが合体した中性子星が形成されます。そして、周囲から落ちてくる鉄が中性子星の表面ではね返されるときに、衝撃波が発生します。この衝撃波が星の外部まで到達すれば、超新星は爆発するのです。
しかし、衝撃波は伝わるときに、周囲の鉄の分解反応にエネルギーを奪われ、途中で止まってしまいます。その様子を滝脇さんは「熱湯(衝撃波の内側)に氷(鉄)を投げ込むようなものです」と表現します。このように弱くなった衝撃波が、ニュートリノによる再加熱で復活し、爆発に至ると考えるのが「ニュートリノ加熱説」です。
「3次元シミュレーションによる超新星爆発の再現は世界で初めてのことです。ニュートリノによる再加熱と対流によるかき混ぜ効果の両方を精密に扱うことによって成功しました。世界で最も現実の超新星爆発に近いのです」と滝脇さん。3次元での計算が可能になった背景には、「京」の計算能力の高さとともに、滝脇さんが仲間たちとともに優れた計算手法を開発したことがあります。
数値計算の中で特に難しかったのが、ニュートリノの動きと、どの程度のニュートリノが衝撃波の再加熱に関与するか(ニュートリノ輻射輸送)を計算するところでした。2009年に、スイスのバーゼル大学のリーベンデルファー博士が、この計算のための近似法を開発していました。一方、対流の扱いについては、仲間の1人、福岡大学の固武慶(こたけ・けい)さんが2次元で計算する手法を編み出していました。
もう1人の仲間、京都大学の諏訪雄大(すわ・ゆうだい)さんはこの2つの計算法を組み合わせて、少ない計算量でも、ニュートリノ再加熱をより正確に計算できる道を開いていました。そして、滝脇さんが2011年に、諏訪さんの計算法を3次元計算に適用したプログラムをつくりあげたのです。「元々はリーベンデルファー博士の近似法をそのまま使っていたのですが、僕のシミュレーションでは、この近似法の陰解法を陽解法(「スパコンのことば」参照)に変えたら、もっと簡単に計算できるのではないかと気づいて手を加えたんです」。こうして、ついに「京」での3次元シミュレーションが実現しました。滝脇さんが簡単にしたとはいえ、図1 の(b)から(e)までのたった1秒間の現象を再現するために、「京」の計算ノードの5%を60日間も使う大計算でした。
今回の結果から、ニュートリノ加熱説が正しいことがかなり確実になりました。図2は、シミュレーション結果を「エントロピー」という量で可視化したものです。エントロピーは、爆発的に膨張しているところで大きな値をとります。その時間変化を追うと、最初、ほぼ球形をしている衝撃波が、時間とともにいびつになって広がります。さらに、ニュートリノ加熱によって生じた対流の渦が分裂したり合体したりしながら、衝撃波の内部を大きくかきまぜているのがわかります。この対流によって加熱効率が上がるので、衝撃波は外部まで届くのです。
しかし、これで研究が終わったわけではありません。今回の計算で再現できた爆発のエネルギーは、実際の観測値の10分の1ほどと小さいものでした。滝脇さんはその原因を、計算の一部に近似を使ったためだと考えており、より詳細に計算するためには、「京」より計算能力の高い次世代のスーパーコンピュータが必要だと考えています。
滝脇さんはすでに、このプログラムを使って、さまざまな大きさや質量をもつ星の一生を計算しており、その爆発の多様性に驚いています。「現実の世界では、巨大な星はブラックホールになるので、将来はそこまで再現できればと思っています」。すべての星の行く末を1つのプログラムで再現できるようになったとき、私たちの自然への理解は大きく前進することでしょう。滝脇さんたちのチャレンジはこれからも続きます。
ニュートリノといえば、2002年に東京大学の小柴昌俊名誉教授がノーベル物理学賞を受賞したことを思い出す人もいるでしょう。その受賞理由は、大マゼラン雲で起きた超新星爆発で放出されたニュートリノを、1987年にカミオカンデという3000 t の水をはった巨大なタンクで検出したことでした。
物質を分割すると、分子、原子、原子核と電子、…というようにどんどん小さくなっていき、クォークや電子などの素粒子にいきつきます。ニュートリノも素粒子の1つで、さまざまな反応で発生します。例えば、地球上には、太陽で核融合により発生したばく大な数のニュートリノが降り注いでいます。しかし、ニュートリノは電荷をもたず、とても小さいため、なんでも通り抜けてしまい、なかなか検出することができません。
星の重力崩壊のときには、電子と陽子から中性子とニュートリノができる反応がさかんになり、ニュートリノが熱を持ち去って星の中心部を冷やします。しかし、中性子星ができると、その表面からニュートリノが放出され、その一部が中性子などと反応して熱が出ます。この熱で、衝撃波が再加熱されるのです。残りの大部分のニュートリノは宇宙に飛び散っていきます。
2014年10月17日発行