輻射場照射や分子運動等に伴う各種状態遷移力の影響を受けて分子系に生じる励起電子の動力学は、光化学、光合成、太陽電池等の光エネルギー変換過程において主要な役割を果たします。この過程は光-物質、非断熱、スピン軌道結合に促され励起電子が集合体系内の構成分子間を変遷する、原始的な化学反応と捉える事ができます。同時に、擬縮重を含む複雑な構造を有する電子励起状態群において分子運動と電子の動力学が非断熱的に相互作用する事で生じる電子と原子核の波束のもつれ合いと分岐が関与しており量子論的にも興味深い要素を含んでいます。光化学過程における系の化学的個性に応じた動的特性についての理解を深め、光エネルギー高効率変換の設計指針を構築していく上でも、量子動力学、量子古典混合法、電子動力学理論は、分光技術や電子状態計算技術の進展と連動して、今後も益々重要な役割を果たすと思います。今回の発表では、はじめに、励起化学過程の記述を行う上で基礎となる概念、理論形式、代表的計算手法(非断熱量子波束法、各種量子古典混合手法)に関する解説を行った上で、各種量子位相の役割や数値計算効率化等の話題を交えつつ、これまで獲得されてきた知見の一部についての紹介を行います。時間に余裕があれば、分子集合系に生じる励起電子の動的相互作用解析を念頭に最近考案した電子動力学法に関してもお話しできればと考えています。
第119回
第119回
日時: 2017年9月6日(水)、15:30 – 16:30
場所: AICS 6階講堂
・講演題目:光化学過程における非断熱量子動力学
・講演者:米原丈博(量子系分子科学研究チーム)
※発表は日本語、スライドは英語