理化学研究所 計算科学研究機構

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Science 研究成果

エネルギー問題を解決する新物質・新材料の開発

常行氏
自然エネルギーや化石燃料から利用しやすい電力を得る創エネルギー、少ないエネルギーを効率的に利用する省エネルギーを実現するためには、エネルギー変換に関連する新物質の開発が不可欠です。

その新物質の開発を行う際に必要な原子配列を「見る」技術には、電子顕微鏡などの顕微鏡や大型施設(SPring-8(*1)、J-PARC(*2))で直接見る方法があります。もうひとつの手段は、物理の基本原理に基づくコンピュータシミュレーションです。物質の物理的な性質や構造変化などはコンピュータを用いた計算でも調べることができます。

エネルギー問題を解決する物質・材料の科学その計算には強力な計算機パワーが必要となり、スーパーコンピュータ「京」が大きく活躍している場があります。幾つかの例を紹介します。

【新しい電池材料の開発に貢献】
急速に需要が高まる電池市場で、性能の鍵となる電極材料、電解質の開発に「京」が利用されています。今までは理想的な電極と電解液の界面の条件のみで、化学反応のシミュレーションを行っていました。これが「京」を使うと、電極への付着物の影響等を考慮した、現実の界面の条件で生じる、複雑な反応を計算できるようになります。また電極材料の構成する元素の種類を変化させて計算ができるため、電極や電解質の新材料や最適な組み合わせを探索することができます。

【メタンハイドレートの融解の仕組みを探る】
メタンハイドレートはメタンが水と結合してできた化合物であり、日本近海の海底に多く存在すると言われています。燃焼時のCO2の放出量は石油の70%以下と少ないことから次世代のクリーンエネルギーとして注目されています。現在、計画されている減圧法による採取の際、メタンハイドレートの融液中にメタンガスの気泡が生じます。「京」を用いてそのハイドレート融解の大規模なシミュレーションを実施しました。その結果、メタンの気泡サイズ等により融解のしかたが異なることが発見されました。今後の効率的な採取法の研究に役立てることが可能です。

【電気を創るために】
発電機などに用いられる日本で開発された世界最強のネオジム磁石。この磁石にはネオジウムやディスプロシウムといった希少金属が利用されています。これらの希少金属は国内で生産されていないため、海外からの安定供給に不安があります。そこで「京」を用いて、レアアースを使わない、より強力な磁石を創るためのコンピュータシミュレーションが行われています。
これからの計算物質科学

【電気を効率良く運ぶために】
超伝導体(*3)は、エネルギーロスのない送電線や、超伝導リニアモーターカーなどでも注目されています。「京」を使って新しい超伝導現象のメカニズムの解明を進め、より効率良く電気を運ぶ方法を模索しています。

【まとめ】
このように「京」を利用して、物質の性質を解明し、様々な環境における影響の予測などを行い、創エネルギー、省エネルギーにつながる新しい物質を創り出す研究が行われています。今後も、「京」や、将来のスーパーコンピュータが活躍することで、様々な開発がスピードアップし、創エネ、省エネが進められて行くでしょう。

【京コンピュータシンポジウム2013講演などから抜粋】

 

関連情報

京コンピュータシンポジウム2013 講演要旨講演資料
マイナビニュース・京の活用により、エネルギー問題を解決 - 東大

Torrent#7(電池関連)、(メタンハイドレート関連

*1 SPring-8:電子を円周上に回転させ、その接線方向に発生したX線を物質評価に利用するための大型放射光施設。
*2 J-PARC:物質科学など幅広い分野の最先端研究を行うための大強度陽子加速器施設。
*3 超伝導体:超低温に冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象がおこる物質。