「京」で初めて実現できる、“流れ”の詳細なシミュレーション
空気や水などの流れと機械の性能には、深い関係があります。自動車、船舶、ジェットエンジンなど数多くの工業製品の開発において、コンピュータシミュレーションを用いた空気や水の流れの予測は非常に重要な役割を果たします。
この水や空気の流れの数値計算では、計算メッシュ(格子)という微小なサイコロ領域ごとに方程式を解き、それらの結果を統合して全体の流れを把握します。計算メッシュを細かくとると計算の精度が上がり、より現実に近い流れが再現できますが、方程式の数が多くなり計算に膨大な時間がかかります。
「京」は従来のスパコンの数十倍から百倍の計算能力を持っています。これは、現在産業界でシミュレーションに用いられているコンピュータと比較すると約1万倍の能力と考えられます。従来のコンピュータでは、数百万のメッシュ数を使用していましたが、「京」では、300億から1000億のメッシュを使用した計算が可能です。
実際に「京」で、300億メッシュを使用し、自動車のまわりの空気の流れを計算したところ、とても細かい渦が無数にあり、従来解析ができなかった1mm以下の微小な渦まで再現することができました。(図1)
また、船が進む際に水から受ける抵抗の予測では、プロペラと舵の付いている船に対する計算を行いました。300億メッシュを使用し、数値シミュレーションにより曳航水槽試験(*2)を完全に代替できることを確認しました。(図2)
このようにシミュレーションを活用する場合は高い精度が求められるため、シミュレーション結果と実験結果の比較や検証を重要視した取り組みも進められています。
産業界が「京」に期待することは大きく3つあります。
① 様々な実験、試作の代替が可能となり大幅な開発費用の削減が期待できる。
② 非常に多数のシミュレーションを同時に実行することにより、短時間に最適な方策を見出すことができる。
③ 今までになかった精緻なシミュレーションにより、新材料や新製品開発、あるいは既存製品の性能・信頼性の飛躍的な向上を実現することができる。
現在、多くの企業とコンソーシアムを組んで協力して研究を行っています。「京」などのスパコンを活用し、数年以内に革新的な成果を得て、世界の市場での競争力強化につなげようと考えています。
【京コンピュータシンポジウム2013講演などから抜粋】
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京コンピュータシンポジウム2013 講演要旨・講演資料
マイナビニュース・微小な空気の渦までシミュレーションすることで空気抵抗を低減 - 東大
*1 風洞:風を人工的に起こすトンネル型の装置。風洞を用いて自動車などが気流から受ける影響を計測することにより、製品開発・設計のためのデータを得ることができる。
*2 曳航水槽試験:船舶の性能を調べるための水槽試験。模型船を用いて抵抗・推進性能、操縦・運動性能等を調べる。模型船を引っ張って動かしたり、波や風を起こすことができる。