火星ダストデビルの性質を解明 ~火星天気予報に向けて~
人類はまだ地球以外の惑星に降り立ったことはありません。現在、アメリカを中心として『2030年代半ばに火星有人探査実現』という計画が掲げられており、着々と研究が進められています。
実際に火星に降り立つとき必要なものの一つは、「火星天気予報」。その第一歩が、はじめられています。
塵の悪魔「Dust Devil(ダストデビル)」
図1 火星の巨大なダストデビル
大きなものでは8000mの高さになるものが観測されている。
(データ引用:NASA/JPL
Wind Action--The Dust Devils of Amazonis Planitia)
よく晴れた日中、乾燥した場所で、渦巻き状に立ち上がる突風が吹くことがあります。これが塵旋風、英語で「ダストデビル」です。学校のグラウンドなど私たちの身の回りでも見ることがあります。
火星でも主に中~低緯度でダストデビルが発生します。地球で見られるつむじ風サイズから竜巻をはるかにしのぐ巨大なものまでさまざまなタイプがあり(図1)、大きな砂嵐につながることもあります。それは時に火星全体を覆うほどの巨大砂嵐となるのです。また、巻き上げられた塵が長期間太陽光を遮ることで、火星の大気の運動が変わることもあります。火星全体の大気の運動とダストデビルの関係を明らかにし、火星気象の研究を進めることが、火星の天気予報への第一歩なのです。
ダストデビルのメカニズムを探る
これまでの無人探査で火星のいたるところにダストデビルが存在することが明らかになりました。しかし、観測数が限られること、画像からは渦の性質を知るために必要な情報を得にくく、強さや大きさを正確に見積もれないことから、その性質やパターン、大気の運動との関係を明らかにするのは困難です。
シミュレーションを行うにも、ダストデビルの水平方向の大きさは数mから数百m、それに対してダストデビルの原因となる大気の対流活動は最大10km。これらを同時にシミュレーションするには、数十kmの領域を数mの格子に分けて莫大な計算を行う必要があり、従来のスパコンでは歯が立ちませんでした。
高解像度数値モデルと「京」
図2 火星ダストデビルのシミュレーション結果
(a):高度62.5 m における計算領域全体での鉛直流の速度の水平分布。暖色が上昇流、寒色が下降流を表している。
(b):(d)の三次元構造。
(c):(a)の四角の領域での鉛直流の速さの水平分布を拡大した図。
(d):(a)の四角の領域での渦の強さの指標の水平分布。暖色が反時計回り、寒色が時計回りの渦を表している。
Nishizawa et al.(2016), Volume 43, Issue 9, p.4180–4188 (C)2016 AGU
研究グループは、大規模な領域を高解像度でシミュレーションするために開発した数値モデル「SCALE-LES」に火星大気の設定を組み込みました。水平・鉛直方向20kmの領域を5mの立方体の格子に分けたもので、全体の格子数は約500億個になります。これを用いて「京」で火星における1時間分のシミュレーションを行ったところ、最も対流活動が活発な時刻(夏、黄経100度、北緯20度、14時30分)に、3000個以上のダストデビルを発生させることに成功しました(図2)。水平半径は数メートルから数百メートル、強さは風速1m/sから数十m/sと種類も豊富です。このシミュレーションから、これまで曖昧だったダストデビルの性質を統計的かつ定量的に明らかにできるようになったのです。
火星天気予報に向けて
近年、火星有人探査計画が現実味を帯びつつあります。火星への着陸や地上活動を行う上で、火星天気予報の技術は欠かせないものです。今後さらにシミュレーションを重ねることで、ダストデビルが発生する季節や場所による違いを明らかにし、火星天気予報を実現することで、探査機の着陸や地上での探査活動に貢献すると期待できます。