「京」を利用した大規模分子シミュレーションによるタイヤ材料の開発
住友ゴムグループは、ダンロップ等のブランド名でタイヤ事業、スポーツ事業、それ以外にも精密用品や人工芝などの産業用ゴム製品も開発している企業です。現在「京」を使って、タイヤの高機能ゴム材料開発を行っています。
自動車およびタイヤを取り巻く社会環境は、低燃費化、CO2排出規制などで厳しくなってきています。2008年洞爺湖サミットでは、IEA(国際エネルギー機関)からタイヤの改良によって自動車燃費を5%削減することが提言されました。そこで、今後のタイヤ開発における重要な3つの方向性である、低燃費性、安全性(ブレーキ性能)、タイヤの寿命向上(ゴム強度)を目標に掲げ、高度化するタイヤの開発ニーズに素早く対応するため、コンピュータシミュレーションを活用しています
1993年に初めて社内にスーパーコンピュータを導入しました。スーパーコンピュータ上で、実際に見ることが困難なコーナリングでのタイヤの動きや、実験では再現が困難な雪上や泥濘地などの路面環境におけるタイヤ模様の作用をシミュレーションしました。さらにはタイヤの溝から出る音の発生や伝わり方の解明も行いました。また2000年代後半は、大型放射光施設SPring-8 (*1)やスーパーコンピュータ「地球シミュレータ(*2)」を活用し、タイヤの素材であるゴムの構造解析を行いました。
現在、タイヤ内部の複雑な構造を解析するだけでなく、高機能ゴム材料を開発することが必要とされています。そこで、分子レベルからの大規模なシミュレーションができる「京」の能力が必要となります。タイヤに用いられるゴムは複雑な構造です。骨格材料となるポリマーやゴムの補強材であるフィラー、ポリマーを連結する架橋剤、結合剤が複雑な構造を形成することで、タイヤ機能を生み出しています。
高機能なゴム材料の開発には、ゴム内部のナノレベルの材料シミュレーション技術が必要となります。(ナノは10-9m で0.000000001メートルの大きさ) しかし企業レベルで保有しているスパコン性能では、大きさの規模(スケール)が違う材料同士をまとめてシミュレーションすることはできませんでした。
しかし「京」を使うと、サブナノレベル(10-9m未満)、ナノレベル(10-9m)、サブマイクロレベル(10-6m未満)にまたがる現象をまとめて、分子レベルで詳細なシミュレーションが行えます。ゴムの中の構造は不均質で偏りがありますが、これも考慮しながら、フィラー周辺の分子の動きや相互作用のシミュレーションを行いました。この結果、広範囲の規模(スケール)にまたがって現れる性能のメカニズムを解明できるようになりました。
今後も、「京」を使った研究をつづけ、新素材の提案につなげます。そしてタイヤの機能を高める研究から新製品開発を通し、社会貢献して行きたいと考えています。
【京コンピュータシンポジウム2013講演から抜粋】
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マイナビニュース・タイヤに求められる低燃費性/安全性/省資源化の実現に向けたスパコン活用
*1 SPring-8:電子を加速・貯蔵し、それにより発生した放射光を利用するための大型放射光施設。
*2 地球シミュレータ:海洋研究開発機構 (JAMSTEC) 横浜研究所に設置されているスーパーコンピュータ。